『ドリオス』の実践報告
1.使用上の留意点(1)補習を強制しない
(2)時間を決めない
(3)目標を明確にする
(4)現在の内容に即して行う
(5)口をはさまない
(6)答えを教えない
2.利用方法
(1)基礎力養成のための学習
(2)学力養成のための学習
(3)応用力養成のための学習
3.実践例
(1)成績不振者に対する補習
(2)欠点者補習
(3)平常補習
(4)短期集中補習
(5)数学不要者向け授業
4.まとめ
1.使用上の留意点
基礎学力の定着には自ら学ぼうとする学習意欲の維持と継続的学習が必要であり、常にこのことを念頭におきながら『ドリオス』を使用しなければならない。補習における使用上の留意点をまとめると次のようになる。(1)補習を強制しない。
学習は強制されるべきものではない。自らの意志に基づいて行われるとき、その効果が最大限に期待でき得る。自ら学ぼうとする学習意欲を引き出すのは教師の役目であり、補習が成功するかしないかはこの点に大きくかかっている。十分納得のいく話合いの中で、「よし、やるぞ!」という気持ちを起こさせることが大切である。
(2)時間を決めない。
学習活動が生徒の意志に基づくものならば、学習時間を拘束すべきではない。補習時間を教師の都合に合わせるのではなく、生徒の都合に合わせるのである。これは従来の補習と大きく異なる点である。いままでは会議や出張、その他やむを得ない事情により、補習を中止せざるを得ないことがよくあった。しかし『ドリオス』による補習では、教師が不在でも停電でない限り学習が可能である。生徒が学びたいときに学べる環境を作ることが大切である。
(3)目標を明確にする。
学習意欲を高めるためには、これから行う補習の内容について事前に生徒に知らせておく必要がある。どのセクションの問題をやるのか、どのような条件のもとで行うのか、どういうペースで行うのかなどを具体的に明示し、目標をはっきりさせておく。だらだらと終わりがいつくるのか分からないようなやり方は禁物である。
(4)現在の内容に即して行う。
分数の計算が苦手だからといって、そればかり練習させることは、生徒のプライドを傷付け、学習意欲を低下させるのでかえって逆効果である。できるだけいま授業で行っている内容に即して分数の計算練習をさせたい。もし、それが無理であれば、問題と問題の間に分数計算を入れるなど、現在の授業内容と混ぜて実施した方がよい。
(5)口をはさまない。
従来の補習では教師が生徒に働きかけることが多かったが、ここでは生徒の積極性に期待したい。質問をしていないのに(一生懸命考えているのに)、横から問題の説明をしたりしないことが大切である。生徒に十分納得のいくまで考える時間を与えることが必要である。
目標がはっきりしていれば、解き方の分からない問題に出会うと、生徒同士で相談したり、先生のところへ質問に来るようになる。経験によると先生より友達に聞くことが多いようであるが、教えたり教えてもらったりすることは、両者にとってプラスになるので大いに歓迎したい。
(6)答えを教えない。
「1つのセクションを3回以下で全問クリアせよ。」という条件のもとで補習を開始すると、3回目の最後の問題で「先生これで合っていますか。」と質問に来る生徒が出てくる。このような質問に対しては明かな返事を差し控えたい。生徒は「これで合格したい。」という気持ちで質問に来るわけであるが、教師が「合っているよ。」と一言いうと、そこで生徒は安心し緊張感がなくなってしまう。
答えが合っている場合は「もう一度考えて、もしそれでいいと思ったら入力してごらん。」とだけアドバイスする。生徒の緊張感は生徒自身の行為によって解き放したい。このような場面になると、生徒は答えを入力し、しばらくパソコンの前で考え込む。自分の一生がこれで決まるかのように真剣な眼差しで答えを見つめる。やっとの思いで決心し「OK」のキーを押す。画面には音と共に合格の表示が出る。生徒は学校中に響き渡らん程の大きな声で
「やった!」「先生、合格したよ。」
この興奮と感動。人間にはできない機械だからこそできた『ドリオス』からの最大のお返しである。ここまでくれば、教師の役目は生徒と一緒にこの喜びを分かち合うことではないだろうか。この成就感はきっと生徒の将来に役に立つことであろう。
2.利用方法
『ドリオス』は補習・授業を問わず、基礎学力養成から大学受験レベルまで対応できる個に応じた画期的な電子問題集である。『ドリオス』は教師一人ではなし得なかった、生徒のために生徒に合った問題を作成し解答するという離れ業を成し遂げた。ここでは、その『ドリオス』の利用方法について述べる。(1)基礎力養成のための学習
基礎学力を付けさせる目的で、欠点保有者やそれに準ずる生徒を対象に学習を行う場合は、基本問題の中から10〜20セクション選んで与える。
学習の目的は計算力の向上と公式の定着であるから、すべてのセクションをできるだけ1回で合格することが望ましい。そこで、学習条件を次のように多少厳し目に設定する。
《設定例》
合格正答率 : 50%
合格解答数 : 3回
解答回数 :999回
ヒント請求回数: 0回
解答請求回数: 0回
この条件のもとでは、1回目の正答率が50%で、同一問題を3回以下で全問正解した場合にそのセクションが合格になる。この条件を満たさなかった場合は正解するまで(999回)その問題を解答したのち、再び同一セクションの問題が出題される。ヒントおよび解答を見ることはできない。
(2)学力養成のための学習
理解力を深めたり計算力を付けさせる目的で、進学希望者を対象に学習を行う場合は、標準問題から20〜30セクション選んで与える。
学力を付けさせるのが目的であり、生徒の学習意欲も期待できるので、学習条件を次のように多少甘目に設定する。
《設定例》
合格正答率 : 0%
合格解答数 : 5回
解答回数 :999回
ヒント請求回数: 10回
解答請求回数: 3回
この条件のもとでは、同一問題を5回以下で全問正解した場合にそのセクションが合格になる。この条件を満たさなかった場合は正解するまで(999回)その問題を解答したのち、再び同一セクションの問題が出題される。ヒントは10回まで、解答は3回まで見ることができる。
(3) 応用力養成のための学習
入試問題を解く力を付けさせたい場合は、発展問題から20〜30セクション選んで与える。
ひらめきや応用力を付けさせるのが目的であるから、学習条件を次のように甘く設定する。
《設定例》
合格正答率 : 0%
合格解答数 :999回
解答回数 : 5回
ヒント請求回数: 無限回
解答請求回数: 3回
この条件のもとでは、5回までに正解が得られなかった場合は、ヒントまたは解答を表示して、次のセクションの問題に移る。ヒントは何回でも自由に見ることができ、解答は3回まで見ることができる。
3.実践例
『ドリオス』の実践上の特徴を挙げると次のようになる。■生徒の学力に応じた問題を選択し与えることができる。
■生徒一人一人に数値の違った問題を出題できる。
■与えられた問題を理解しなければ先に進めない。これによって、1つ1つの問題をじっくり考える習慣が身に付く。
■合格基準を設けることによって、適度な緊張感と解放感が生まれ、学習意欲を維持させることができる。
ここでは、『ドリオス』の実践例と生徒の感想を挙げておく。
(1)成績不振者に対する補習
1年次および2年次前半を通して成績不振であった2年生5名に対し、2学期中間考査直後から2学期期末考査直前までの期間、『ドリオス』による補習を実施した。その結果、5人全員の成績が飛躍的に向上した。
《感想》
◎補習のおかげで数学の楽しみが分かりかけてきた。
◎今回の補習はぼくにとってためになったと思う。初め補習といわれたときは、すごくいやだったけど、問題を解いていくうちにだんだん分かってきて、数学がけっこう好きになった。実はぼくは数学が余り好きでもなかった。でも今回の補習でやればできるということがよく分かったような気がした。
◎この補習は初めめんどうでやるのがいやだったが、新たに公式ややり方も覚えたりできたので補習をやってよかった。
◎この数学の補習をやって本当にいろいろとためになったと思う。自分でやり方が分かるまで、納得するまでやらなくてはいけないと思った。
◎今まで数学の補習をやってきてよかったと思う。最初の頃は分からないのが補習をやって分かるようになるもんかと思ってやっていたが、中間テストあとから今まで補習をやってきて自分自身プラスになったと思う。今は補習のおかげで少しは解き方も分かってきた。少なくとも自分自身に「やればできる」という根性がついた。
(2)欠点者補習
1学期期末の成績で欠点を取った生徒および希望者合わせて24名に対して、1学期期末後の8日間9:00〜16:00までの任意の時間帯で『ドリオス』による補習を実施した。
《感想》
◎とても暑かったけれど、とてもためになる補習でした。わからなかったところもだいぶできるようになりました。2学期は1学期だめだった分がんばろうと思います。
◎とても楽しく数学ができて良かった。問題が解けるまで、解答が正解するまでは次に進めないので、自分のわからないところがどこなのかはっきりわかってとても良かった。自分が本当に理解するまで勉強しなくてはいけないという事をつくづく感じた。コンピューター室が暑くてイヤだったけれど本当にやって良かったと思いました。
◎出席して良かった。コンピューターを使うこともおもしろかったし、なんといっても、問題を理解できたことがうれしかった。
◎はっきりいって楽しかった。けど簡単な問題は早く解けたのに比べ、だんだん難しくなると、まちがいも多くなり、スピードも落ちてしまった。難しい問題でもすらすらと解けるよう、夏休み中に基礎的なことは完ぺきにしたいと思う。
◎パソコンが使えたのでおもしろかった。解答をうち込むときの緊張感がたまらなかった。問題の方は、教科書を見ればなかなか簡単なものがたくさんあったので良かったけど、1問解くのに30分以上かかったものもあったのでたいへんだった。この補習で、だいたいの解き方が理解できたので良かった。
◎1日目と2日目の2日間出なかったので、3日目、早めに終わらせたいと思いました。コンピューターにさわるのは初めてではないのですが、最初は慣れなくて、四苦八苦していました。でも、やっぱりしてみるとおもしろくてやめられなくなり、1日目で12セクションを終えていました。で、2日目。おもしろくてたまらなくて、けっこうはかどって、これは今日で完全に終わるなと思ったのですが、最後の重解で手間どってしまい結局、追加1枚。ちなみに頂点の座標もやってしまうほど、コンピューターにのめり込んでしまいました。で、思うことは、商業科の人たちがひたすらうらやましいです。どうして私は普通科に入ったんだろうと後悔もするほど、コンピューターが好きになってしまいました。ところで肝心の数学の方ですが、コンピューターでやると楽しいです。でも、試験の問題はこのコンピューターでやった問題よりも応用がきいていてさらに難しいので、まだまだ数学は好きになれそうにないです。2日間で17セクションを終わったし、コンピューターにさわれたし、今回の特別の補習はとっても充実していました。ぜひまたやりたいなと思います。
◎補習を終えて”やっぱりやって良かった”と思います。それは先生が”大変だ”と言っていたわりにすごく楽しかったし、自分で苦労して解いた問題が正解だった時の満足感や17セクション全部終了したときの充実感などたくさんのものを得ることができたし、そして何よりも数学に対して少しだけ自分に自身が持てたからなのです。今までずっと”苦手だ”と決めつけて嫌っていた数学がコンピューターを使うことによってこんなにもおもしろくなるんだなと感心しました。だから、問題もけっこうすんなり解けて集中してやれました。この補習でついた力を無駄にしないで、もっと数学に慣れ親しんで数学が好きになれるように努力しようと思います。
(3)平常補習
普通科1年の補習希望者20名に対して、2学期の前中間テスト直後から中間考査直前までの3週間の昼休みまたは放課後の任意の時間帯で『ドリオス』による補習を実施した。
《感想》
◎この補習によって、25点upという神業に近いことをやってのけた。
◎この補習を受けて、テストの点数が前より良くなりました。授業や問題集では解き方がいまいち良く分かりませんでしたが、この補習で結構分かるようになりました。
◎補習期間中一度もやめたいとは思いませんでした。そしてなんと中間テストでは65点という予想もしない点数になりました。
◎今回のテストであれだけの点数を取れたのもこの補習のおかげだと思う。またこのような補習があったら絶対参加したい。
◎この補習のやり方はとてもやる気が出ると思います。この補習のおかげで今回のテストで初めて平均点以上が取れました。これからも受けさせて下さい。
◎この補習は楽しく勉強ができるのでとても好きです。それに分かるまで頑張るので、解答が合っていたらものすごくうれしいです。
(4)短期集中補習
昼夜3日間集中的に『ドリオス』による補習を実施した。。
《感想》
◎とてもおもしろかった。特に、パソコンを使っての補習はすっごく楽しかった。
◎パソコンを使って個人でやるというのがとても良かった。あと、1つの分野の所を沢山やるのではなく、少しずつ要点を絞ってやっているのが飽きがこなくてとても良かった。私は数学があまり得意でもないし、すごく好きというわけでもないので、こんなふうにパソコンを使ってやると楽しくてやる気がでる。家に帰ったら合宿の間にやったことを復習して、もっともっと問題を解こうと思う。これからも補習をやってほしい。
◎パソコンを使ってやってみたことがなかったので、最初とまどってしまったけれど楽しかった。普通の問題集だと問題数が多すぎてうんざりするけど、この補習はそんなに問題数が多くないのでやりやすかった。3回とも全部だめな時はとても悔しかった。それで○になった時とてもうれしかった。
◎関数の所でとても苦戦して何枚もやったので結構分かるようになった。
◎自分の弱点も分かって本当に良かったと思います。
◎とてもおもしろく熱中できた。良い復習になった。もっとやりたい。
◎とても役に立つ問題ばかりでとても勉強になった。
◎おもしろかったけどとても疲れた。
◎最初の方の問題は楽に進むことができたが、半分くらい進むと結構難しい問題が出てきて苦労した。しかし、その問題を解いたときはとてもうれしくなるので、楽しくやることができた。
◎20セクションを終えた時の喜びは口では言い表せない程大きいです。授業を聞いて分かった気になっていたけど、それはその場限りで時間がたてばすぐ忘れてしまうから何回も繰り返し問題を解くことが必要だと身にしみて感じた。とにかく、補習に出て良かったと思う。
◎1〜2時間授業をみっちり聴くよりは精神的には楽だし、自分で黙々とやるよりも周りの人に教えてもらったりできる雰囲気はやっぱりいいと思います。
(5)数学不要者向け授業
数学が受験に必要でなくなった生徒37名に対し、年間を通して教科書レベルの問題演習を行った。数学が不要になった生徒に問題演習をさせるには、はなはだ困難をきたすことも多いわけであるが、授業態度はきわめて真面目であり、全員真剣に問題演習に取り組む姿勢が見られた。
《感想》
◎正解の瞬間のほっとする気持ちが何とも言えず良かった。集中力や注意力が養われた。
◎今までの授業と違って、とっても楽しかった。たぶん、ずっと忘れないと思います。
◎ドリオスをやることによって授業が楽しかったし、今までにない数学に対するやる気が出てきた。友達と教え合ったりして協力してできたので良かった。本当に充実していたし、本当に楽しかったと思う。
◎今まであまりすることのなかった数学の予習も毎回するようになった。
◎見直すという考え方が身に付いた。
◎今までなら数学があると思うと気がめいっていたけど、コンピューターだと思うと何だかはりきって元気が出てきた。
◎嫌いな数学でもドリオスのおかげで少しは好きになることができた。
◎すごく楽しくできるから、今では唯一楽しい授業です。
◎1問1問解いていく楽しみと入力するときのスリルが良かった。
◎自分のペースで解答でき、問題を1枚1枚重ねる毎に点数かされて意欲が湧いてくる。
◎ドリオスは少しずつ勉強していくことの大切さを教えてくれた。
◎普通の授業より頭に入った。間違ったところを再度チャレンジするという仕組みがいいと思う。
◎普通の授業より楽しく、よく頭に入る。この授業方法はとても気に入った。
◎50枚終えた時、飛び跳ねました。叫びました。とってもうれしかったです。
◎修了証書をもらった今日という日はすごく満足している。
◎終了証書を見たときは、何とも言えない達成感が得られました。
4.まとめ
様々な角度から『ドリオス』による問題演習を実施したが、どの実践においても生徒の高い支持を得ている。生徒の意見から、通常の補習や授業と比較した場合の『ドリオス』の長所をまとめると次のようになる。・答えを入力するときの緊張感がたまらない。
・正解したとき満足感がある。
・じっくり考える力が付く。
・自分のペースでできる。
・答えを見直す習慣が身に付く。
・友達と教え合うことができる。
・自分のやりたい分野を選択できる。
・問題が少しずつ出題されるのでやる気が出る。
・正解の度に点数が加算されるので意欲がでる。
・全問終了したときの達成感がうれしい。
『ドリオス』の学習意欲は、入力するときの緊張感、正解したときの満足感、そして全問終了したときの達成感などによって維持されている。この満足感や達成感を得るためには、生徒のレベルにあった適度な問題を出題する必要がある。難しすぎても易しぎてもいけない。難しすぎれば正解できないからやる気を失ってしまうし、逆に易しすぎると努力せずに正解になるから、正解したときの満足感が得られない。この点さえ注意すれば生徒の学習意欲を維持させることができる。
しかし、数年に渡って学習意欲を維持させるためには、生徒自身が『ドリオス』の持つ学習方法の良さに気づく必要がある。それは、「じっくり考えることの大切さ」である。普通の問題集だと分からない問題に出会うと、どうしてもヒントや解答の誘惑に負けてしまうことが多い。しかし、『ドリオス』ではヒントや解答を見る回数が制限され、しかもヒントや解答を見ると減点の対象となるので、すぐにヒントや解答を見ることは抑制される。これによって、知らず知らずの間にじっくり考える習慣が身に付き、計算力だけでなく思考力も向上する。これが『ドリオス』の魅力なのである。